「Player」値上げのご報告

 音楽雑誌「Player」は2019年8月号より本体価格1,500円(税込1,620円)に値上げさせていただきます。購読されている方に大きな御負担を強いてしまうのは不本意ですが、50年続いて来た「Player」を守るための決断です。値上げについての経緯をご説明します。

 これまでの「Player」の定価は広告収入に頼った雑誌作りをすることでキープしてきました。ところが2011年の東日本大震災を機に本の売り上げがダウンし始めます。さらに、WEBメディアの台頭もあり思うほどの広告収入が得られなくなりました。僕が編集長にバトンタッチした2016年の時点で大きな赤字で、売り上げアップが求められました。そこで行なったことは、表紙巻頭特集の頁数を大胆に増やし、誌面内容も毎月のコーナー縛りではなくて旬の取材ネタを最大限に活かす柔軟性のある誌面作りです。また、長らく「Player」にはどちらかといえば洋楽誌のイメージで捉えている読者の方も多いと思うのですが、近年においては日本人ミュージシャンの表紙展開も好評ということもあり増やしました。こうした誌面刷新を少しずつ行なうとともに、大幅な制作経費の削減にも着手、さらには人件費の削減もしました。これら努力の甲斐あって、JOY-POPS表紙の2018年6月号、至高のエリック・クラプトン2018年8月号、浜田麻里×高崎晃の2018年9月号などは極めて好セールスを記録しています。僕らの試みの全部が成功したわけではありませんが、この紙媒体不況が叫ばれる昨今で、刷り数も少しながら増やすとともにそれでいて売り切れる本を作れたというのは「Player」にとって大きな自信になったのです。

 が、それでも赤字は埋まりませんでした。本音を言えばもっと早く値上げしたいところでしたが、この5月まで創刊50周年記念の途中のタイミングでの値上げは避けたかったこと、それが明けてもちょうど改元の10連休という特殊な条件が重なりこの7月のタイミングになったというのが理由です。しかし、その間も紙代や配送料の値上げを筆頭とする制作費の高騰は遂に僕らでカヴァーできる範囲を超え、広告収入前提のビジネスモデルを断念せざるをえませんでした。

 僕自身は80〜90年代の「Player」を愛読して育った世代で、それが高じて今、6代目の編集長を務めています。あの頃の「Player」は洋楽のヒーローたちが顔を連ねると同時に、“なんでこんな記事が!?”というニッチなものとが同居した不思議な雑誌に見えました。いまだに印象深いのは明和電機の自作楽器コレクションの特集記事でしたり、かつて存在した“DEAR MY PARTNERS”というコーナーでいわゆる一般的な弦楽器以外の楽器、和楽器などのコレクションを紹介していたり、ちょっと“ビョーキ”と思える楽器コレクターの特集記事だったり、ミュージシャンのピックアップにしてもジャンゴ・ラインハルトの特集だったり、インタビューにしても他の雑誌ではなかなか載らないようなミュージシャンの取材に驚きつつ、当時はそうして知った人たちをラジオでエアチェックして音楽が好きになっていった10代でした。今は動画サイトやサブスクなどで聴こうと思った音楽にはすぐにたどり着ける便利な時代ですので、「Player」でもサブスクでその号ごとの“プレイリスト”を発表していこうというアイデアもあります。

 ただし、そうしたアイデアを実行に移していくにあたり、意外と今は僕らでも音楽情報のディティールをつかむことが難しくなってきていることに気づきます。楽器誌としてミュージシャンがどういう楽器や機材を使ってどのようなレコーディングをしているのか? ライヴをやっているのか? これは一番の関心どころです。が、世の音楽メディアは音源リリースやライヴのプロモーションツールとしての存在が大きくなっています。「Player」が創刊以来こだわってきたところは、ミュージシャンの作品制作(ソングライティングやアレンジ、レコーディング、ライヴにおけるプレイアプローチ)、勿論楽器に関して徹底的に掘り下げた本作りであることです。そして意識的に「Player」はその方向性に舵を切っています。目指すはより独自性のあるディープでマニアックな記事であり、過去の音楽や楽器であっても資料価値をよりアップデートしていくような誌面構成です。記事によってはビギナーには難しすぎるものもあるかもしれません。でも、意外と他の記事なども読み進んでいくことで共通項があったりして、“あ、あの記事に書かれていたことがこれなのか!”といった発見に結びついていく面白さも雑誌の魅力だと思っています。

 大幅な値上げによりページ数が増やせたので、現編集長の僕としてはこのタイミングで実現したいことがありました。特に2019年8月号以後のセンターページに顕著ですが、「Player」の大きな武器である美しい写真をクローズアップした新企画も始めました。毎月貴重なヴィンテージギター/ベースを美しいピンナップで見せるとともに、詳細な解説でまとめている「The Vintage File」がセンターページにあるのはそのままに、その外側を「Musician’s Photo Card」という新コーナーが取り巻くページ構成になっています。「Musician’s Photo Card」はかつて「Player」にあったピンナップコーナーの復活版です。ミュージシャンの魅力的な写真が大小様々なフォトカードという形で毎月掲載されます。経費削減により消滅したミュージシャンのピンナップが、フォトカードというかたちで復活できたのは僕の悲願の一つです。さらに著名ヴィンテージギターショップの協力のもと、歴史的名器の数々をピンナップでお見せする「Vintage Guitar Gallery」のコーナーもスタート。さらには「Vintage Guitar Gallery」のミュージシャン版というかたちで、「zoom up!」というミュージシャンの愛器をスケール感たっぷりに見せるピンナップページもスタートしました。

 記事においても、レジェンドな日本のギタービルダーやメーカーを掘り下げていく企画「Guitar Creators」がスタート。取材から記事にするまでどうしても時間を要するので毎月は無理ですが、隔月くらいのペースで展開していきたいと考えているページです。そのほか、海外ミュージシャンのライヴ機材を紹介する「The Guitar」、毎月ヴィンテージ・ギター/ベースを徹底的に解析する「Vintage Guitar Archives」、話題の新製品を試奏してご紹介する「New Products」、国内ミュージシャンのライヴ機材をレポートする「From The Backstage」、Playerの豊富な過去記事でそのミュージシャンの足取りをまとめつつも、最新のインタビューや機材レポなどで迫る「プレイバック」、ミュージシャンの愛器の数々を美しい撮りおろしとヒストリーインタビューにより紹介する「My Standard」といったこれまでのコーナーも、取材ネタ次第の不定期にはなってしまいますが積極的にやっていきます。さらに文化放送の音楽番組「高橋ちえ Music With You」とのコラボレーションページもスタートしました。毎月、番組ゲストに来たミュージシャンの愛器の数々をパーソナリティの高橋ちえさんがコラム形式で紹介するページです。

 少しですが頁数も増やして、月刊誌ながらも永久保存版の誌面作りにより一層挑んでいきます。洋邦音楽ジャンル問わず、他では読めない楽器と演奏者の関係性をテーマとした記事を提供します。今回の値上げにあたり、“値上げするくらいなら印刷コストのかかる紙媒体はやめて、WEBマガジンや電子書籍に特化するのはどうなのか?”という意見も内外からありました。ただ、僕自身としては紙媒体に非常に愛着があります。先達から継承して培ってきたノウハウをもとに、紙や印刷にもこだわり続けて資料価値のあるものをちゃんと残したいのです。創刊当初はタブロイド判だった「Young Mates Music」が変色しつつも今も保存されていることを考えると、少なくても半世紀以上は残るメディアです。かさばらないとか検索が効くとか電子版の魅力も感じつつ、サーバーが重かったり落ちると読めない時がある、何かの理由でデータが消失する可能性がゼロではない、そもそも端末がないと読めないのもデメリットかもしれません。とはいえ、そういった可能性も同時に考えてもいきます。が、僕としては、できれば自分が一読者だった頃から貫かれているインク盛り気味で写真が綺麗でマニアックな記事がいっぱい載っている「Player」をお届けし続けたいのです。昨今は親子で「Player」を読んでいるというお話もよく耳にします。二世ミュージシャンが世界的に大活躍している時代ですので、二世読者というのももはや驚くべきことではありません。50年生き残ってきたメディアを僕は次世代にバトンを渡せるように、大幅な値上げのご理解をいただきたいのです。

 本体価格1,500円(税込1,620円)という購入しづらい雑誌になってしまう怖さは当然ありつつも、50年続いて来た「Player」を守るための決断です。何卒ご理解をいただければ幸いです。一層のディープな誌面作りに邁進していきますので、引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

Young Mates Music Player 編集長 北村和孝